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(3)
はっと顔を上げると、中央エレベーターのドアが、「チン」という音とともに眼前で開いたところだった。
「…………」
吸い込まれるように乗り込むと、俺の後ろでドアが閉まる。
またもや、気持ちの悪い落下の浮遊感。これ以上落下して一体どこへ行くんだろう、なんてことは、もう考えなかった。夢だから、これは。
鈍く磨かれたエレベーター内部の壁に、自分の姿がぼんやりと映っている。
狐につままれたよう……とはこういう事なのかもしれない。
「……?」
壁に映った己の姿に、ふと違和感を覚える。
俺、……髪の毛こんなに短かったっけ。
ふんわりさせていたはずのもみあげが、襟足が、丸っきり無くなっている。前髪も……こんなに短かったかな……
しかも、額が出ている。ぱっつんというか、ザンバラだ。
思わず眼鏡をかけ直そうとして、もう一度はっとした。
(メガネ、こんなデザインだったっけ?)
銀縁は銀縁でも大きめレトロなレイバン風、しかも特注のハーフフレームだったはずが、今俺がかけているのは一体いつの流行なのか、細型の小さな……
「……チン」
戸惑ううちに、エレベーターが再びノスタルジックな音とともに止まり、扉が開く。
「南部、遅かったな。調整に手間取ったのか?」
第一声俺に放られたのは、妙に落ち着いた歯切れの良い声だった。
「え……っと」
「どうした?」
声の主を見れば、背筋をきりっと伸ばして中央戦闘席の横に立つ、古代……
「あれ……」
「なんだ、何か問題でもあったのか」
「…………」
いえ、なにも。
さっきまで、行儀悪く座席にふんぞり返り、足をコンソールに放り出していたはずの戦闘班長が、小綺麗な優男に変身している。
一方なんと、操縦席からは、音のない口笛が聞こえていた。
太田が鼻クソをほじりながら、航海長に苦言を呈している。どういうわけか、ヤツの声は関西なまりだ。
「島さん、その曲。サビ知らないんですかあ?さっきからAパートばっかり繰り返してますよ」
「あ?良いじゃないか別に」と航海長。
「百合亜ちゃんにお昼のラジオでちゃんと流してもらわなきゃ。俺が聞いてて気持ち悪いっすよー」
「悪かったな〜。聞きたくなけりゃ耳塞いでろ」
航海長と太田とのやり取りが、ヘンだ。いつもの緊張感の欠片もない。
俺は目を瞬いた。
なんとなく洗練された優男と化した古代班長を横目で見ながら、自席に座り、コンソールパネルに目を落としてさらに仰天した。
(波動砲発射シーケンス?)
古代さんしか撃てないはずの、波動砲制御システムパネルが、なぜ俺の席のコンソールに?
「ふぬっ………」
思わずミョーな音を鼻から漏らした俺に、隣の相原が話しかけてきた。
「どうしたの?」
「いや、その……。俺って、波動砲撃てる事になってんだっけ?」
余程変な事を聞いてしまったのか、相原は数秒間口をポカンと開けて俺を見つめ。ついで笑い出した。
「いやだなあ、君が砲雷長じゃないか」
「ほうらいちょう」
「どうしたんだよ?記憶喪失?」
ほう、らい、ちょう……
どうやら、怪奇現象は所属部署だの科目名をも変えてしまったようだ。いや、ここはすでに前のヤマトではない……のかもしれない。
……シュッ、とドアの開く音がして、艦橋に誰かがやって来た。
「交替します、お疲れさま、西条さん」
「あ、はい!お願いします」
思わず振り向くと、レーダー席には「西条さん」と呼ばれた見知らぬ長い髪の女性隊員がいた。そして、そう言った声の主はなんと。
「森……さん」
座席の肘掛けから転げ落ちそうな角度で後ろを振り向いた俺に、森雪が微笑んだ。
「あら。南部くんも非番明け?どうしたの、目をこすったりなんかして?」
「い、いや……」
知らないうちに、眼鏡をはねのけて目をこすっていたようだ。
俺の目は、すごい変化を遂げた森雪のボディに釘付けになっていた。
まごうことなき、ボン・キュッ・ボン……!
ありがとう、怪奇現象!
「も、森さん、あの」
「?」
俺は「お怪我の方は」と訊きかけて黙った。
森雪は不思議そうにしながら、俺に向かって愛想笑いをしてみせる。俺もお返しに、そのアイコンタクトに対してぎこちなく笑顔を返す。
……と、そこに割って入るように古代班長が声をかけて来た。
「では予定通り、これより波動砲発射訓練を行う!南部、指揮を取れ」
なんと。
命令を復唱しながら、俺は自席を勢いよく立った。もとより、波動砲発射シーケンスについては分かりすぎるほど分かっている。古代さんの担当だったはずの波動砲、俺はいつでもアレを撃ちたくて、うずうずしてたんだ。
「頑張って」
森雪がにっこり笑ってウインクしてみせた。
こころなしか、古代班長がしかめ面になったような気がする。
「任せとけって。俺は、大砲屋だ」
キミがそう言ったようにね。
そう小さくつぶやき、俺は中央戦闘席へ滑り込んだ――
(4)へ続く
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